ワイルドストロベリーの低温処理は何日必要?|イタリア・フランス・イギリス3種の発根率を真冬に比較した結果

今回は、ワイルドストロベリーの種まき、「低温処理は何日くらい必要なの?」と気になったので、実際に試してみました。

比較したのは、イタリア・フランス・イギリスの種子会社から購入した3種類のワイルドストロベリー。

順に、

  • Woodland(ウッドランド)
  • Fraise des bois(フレーズ・デ・ボワ(フレーズ・デ・ボア))
  • Mignonette(ミニョネット(ミグノネッテ))
です。

真冬の室内で、低温処理をしない種、低温処理を7日間・14日間・21日間・28日間程度した種をそれぞれ播いて、発根率や発根までの日数を記録しました。

この記事の結論

今回の3種類を比較した限りでは、「ワイルドストロベリーの低温処理は○日間が正解」と一律に決めることはできませんでした。

むしろ、種類によって発根率や発根までの早さにかなり違いがあり、低温処理の日数だけでは説明できない結果になりました。

特にフランスのFraise des boisは、低温処理をしなかった種が10粒中10粒発根。一方、イギリスのMignonetteは全体的に発根まで時間がかかりました。

今回の結果からは、低温処理の期間だけでなく、種の種類や種子の状態、低温処理後の温度環境なども発根に関係している可能性が考えられます。

▼目次


結論|ワイルドストロベリーの低温処理は何日必要?

まず、今回の実験結果から結論をまとめます。

ワイルドストロベリーの低温処理は、今回試した3種類では「○日間が最適」と決めることはできませんでした。

真冬の室内という特殊な環境ではありますが、種類によってかなり違う結果になりました。

種類 低温処理なしのグループの発根率(10粒中) 最も発根率のよかったグループの発根率 印象
Woodland 1/10 最高50% 発根がゆっくり
Fraise des bois 10/10 最高100% 非常に早い
Mignonette 5/8 最高62.5% 発根まで長め

特に面白かったのが、Fraise des boisは低温処理をしなかった10粒すべてが発根したことです。

一方で、WoodlandやMignonetteでは、低温処理を行った種の中にも発根までかなり時間がかかったものがありました。

そのため今回の実験からは、

  • 低温処理をすれば必ず発根率が上がる
  • 長く冷やすほど発根しやすくなる
  • ワイルドストロベリーは○日冷やせば発根する

とは言い切れない結果になりました。

むしろ、種の種類、種子の状態、低温処理の方法、処理後の温度環境などが組み合わさり、発根のしやすさが変わるのではないかと感じています。


今回の3種類で分かったこと

今回の実験で特に印象に残ったのは、同じ「ワイルドストロベリー」と呼ばれる種でも、3種類それぞれの発根の仕方がかなり違ったことです。

低温処理の日数を変えるだけではなく、「この種はどんな条件で発根しやすいのだろう?」と種類ごとの違いを見る必要がありそうです。


今回比較したワイルドストロベリー3種

今回育てたのは、次の3種類です。

種類 購入した種 今回の特徴
Woodland FRANCHI SEMENTI イタリアの種子会社
Fraise des bois Vilmorin フランスの種子会社
Mignonette Thompson & Morgan イギリスの種子会社


イタリア・FRANCHI SEMENTI「Woodland」

1種類目は、イタリアのFRANCHI SEMENTIの「Woodland」です。

今回使ったのは「森の苺 ウッドランドストロベリー 63/3」として販売されていた種です。

FRANCHI SEMENTIは、自社所有の採種用親株から種子生産を行っている品種が多く、公式サイトによると、種子商品の約90%について自社所有の採種用植物から生産を開始しているとのこと。また、社内ラボで種子の発芽能力を検査し、試験圃場でも多くのロットを確認しています。([Franchi Sementi](https://franchisementi.it/sementi-di-qualita/))

ただし、これは「今回のWoodlandが必ずイタリア国内の特定の気候で選抜された」という意味ではありません。

ここは後ほど考察するときにも留意しています。


フランス・Vilmorin「Fraise des bois」

2種類目は、フランスのVilmorinの「Fraise des bois BIO」です。

Vilmorinの公式商品ページでは、ワイルドストロベリーらしい香りと甘みを持つ多年草として紹介され、種まきについては冷蔵庫で2週間ほど低温処理してから播種する方法が案内されています。また、播種時は最低20℃、発芽には平均2〜6週間ほどかかるとされています。([Vilmorin](https://eshop.vilmorin-jardin.fr/fr_FR/produits/fraisier-des-bois-bio))

ところが、私の実験では、この種は低温処理をしなかったグループが10粒中10粒発根しました。

ここが今回、かなり興味深かったところです。後ほど考察します。


イギリス・Thompson & Morgan「Mignonette」

3種類目は、イギリスのThompson & Morganの「Wild Red Strawberry Mignonette」です。

Thompson & MorganではMignonetteをアルパインストロベリーの品種として紹介しており、7〜9月に小さな甘い実をたくさんつける品種としています。([トンプソン・モーガン](https://www.thompson-morgan.com/p/thompson-morgan-exotic-fruit-seed-growing-kit/tka1542TM))

こちらは今回の3種類の中では、全体的に発根まで時間がかかったのが特徴でした。


「イタリア・フランス・イギリス」についての注意点

この記事では分かりやすく「イタリア・フランス・イギリスのワイルドストロベリー」と表現していますが、この点にも注意が必要です。

種子会社の所在国、種子の生産国、品種が選抜された地域、植物種そのものの原産・自生地域は、必ずしも同じではありません。

そのため、「イタリア産だから暖かさに強い」「イギリス産だから寒さに強い」というような単純な国別比較をしているわけではありません。

今回の記事では、あくまでそれぞれの種子を購入した会社の国を目印にして、3種類の実験結果を比較しています。


ワイルドストロベリーの低温処理とは?

なぜ種を冷やすの?

植物の種には、種類によって発芽しにくい状態、いわゆる休眠があるものがあります。

低温処理(コールドストラティフィケーション)は、そのような種を一定期間低温に置いて、発芽しやすい状態へ移行させるために行われる方法です。

ワイルドストロベリーの一種であるFragaria vescaについても、湿らせた種を低温処理することで、発芽がよりそろいやすくなった研究例があります。

あるF. vescaの系統を使った研究では、湿らせた種を5℃で3週間処理したところ、温室へ移した7日後に74%、14日後には91%が発芽しました。一方、低温処理なしでも最終的には高い発芽率に達しており、研究対象となった系統・条件では、低温処理によって発芽のそろい方やタイミングが改善されたとされています。([PubMed Central (PMC)](https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2780397/))

つまり、低温処理には多かれ少なかれ意味がある可能性があります。

しかしながら、少なくとも、今回の私の発芽実験においては、低温処理の有無により、明確に発芽のタイミングが揃えられたとはいいがたい結果となりました。

「すべてのワイルドストロベリーに同じ日数の低温処理が必要」とは限らないのかもしれません。


湿らせて冷やす方法と乾燥状態で冷やす方法

今回の実験では、低温処理をする際、湿らせた状態と乾燥状態の2グループに分けました。

(が、WoodlandとFraise des boisについては、湿潤用の種を出しすぎたため、乾燥グループは7日後のみとしました。育てきれなくなると可哀想だと思ったので)

一般に「低温湿潤処理」と呼ばれる方法では、種を湿らせた状態で低温に置きます。

一方、今回試した乾燥状態の低温処理は、私自身が比較のために行ったものです。

したがって、この記事の「乾燥7日」「乾燥14日」などは、標準的な低温湿潤処理と同じものとして扱わないようにしています。


低温処理後の温度も重要?

ここは今回の実験で私が気になった部分です。

種を冷やしたあと、実際に発根するためには、その後に適した温度や水分、光などの条件も必要になります。

たとえばVilmorinのFraise des boisでは、公式に最低20℃での播種が案内されています。([Vilmorin](https://eshop.vilmorin-jardin.fr/fr_FR/produits/fraisier-des-bois-bio))

そのため、低温処理の日数だけを見るのではなく、「冷やしたあと、どんな環境に置かれたのか」まで考える必要があるのではないかと思いました。


3種類を真冬の室内で低温処理して種まき

今回の栽培環境

今回の実験は、2025年の1月から3月にかけて、室内で行いました。

  • 夜間は15℃を下回ることが多い(日によっては12℃を下回ることも)
  • 日中はファンヒーターを使用すると室温約19℃まで上がる
  • 南西向きの窓辺
  • 容器に湿らせたキッチンペーパーをセットして、そこに播種
  • 直射日光が当たる時間があった
  • ファンヒーターが稼働する真冬の室内なので、屋外より比較的乾燥した環境

つまり、常に一定の温度に保った発芽試験ではありません。

昼間は暖まり、夜は冷える。

そんな、家庭の冬の室内らしい温度変化の中で育てました。


低温処理と種まきのスケジュール

それぞれの種について、低温処理なし、7日間、14日間、20日間、21日間、28日間など、条件を変えて種まきしました。

3種類で用意できた種の数や処理日数が完全に同じではないため(私のうっかり)、今回の比較は厳密な統計実験ではなく、家庭で行った比較観察として見てください。

特に、同じ種類でも条件によって種子数が10粒程度から数十粒まで異なります。(前述のとおり、ざっと出てしまったため)


今回の「発根」の基準

この記事では、種から根が確認できた時点を「発根」として記録しています。

葉だけを先に確認したものは、発根数には含めていません。

また、いったん発根を確認したものの、その後腐敗した種については、「発根確認」として数えています。


イタリアのWoodland|低温処理で発根はどう変わった?

Woodlandの発根結果

まず、イタリアのWoodlandです。

処理 発根 発根率
低温処理なし 1/10 10%
湿潤7日 1/10 10%
乾燥7日 5/10 50%
湿潤14日 3/29 10.3%
湿潤21日 10/79 12.7%

今回のWoodlandでは、乾燥状態で7日間低温処理したグループが5/10と最も高い発根率になりました。

ただし、これは10粒中5粒という小規模な結果です。

また、14日間・21日間と湿潤状態での低温処理期間を長くしたからといって、発根率が上がっていくわけではありませんでした。


Woodlandの発根までの日数

発根までの日数にもかなりばらつきがありました。

処理 最短 中央値
低温処理なし 14日 14日
湿潤7日 15日 15日
乾燥7日 19日 24日
湿潤14日 7日 17日
湿潤21日 9日 23.5日

ただし、発根数が1粒しかない条件では、中央値を「その条件の発根速度」として強く評価することはできません。

あくまで今回の観察記録として見るのがよさそうです。


フランスのFraise des bois|低温処理なしでも次々に発根

Fraise des boisの発根結果

次はフランスのVilmorinのFraise des boisです。

処理 発根 発根率
低温処理なし 10/10 100%
湿潤7日 6/10 60%
乾燥7日 9/10 90%
湿潤14日 21/27 77.8%
湿潤21日 32/41 78.0%

驚いたのが、低温処理をしていない10粒がすべて発根したことです。

しかも、かなり早い段階から発根が始まりました。

Vilmorin公式では、この種について「冷蔵庫で2週間ほど低温処理してから播く」方法が案内されていますが、今回の私の環境では、少なくとも低温処理なしでも十分に発根しました。([Vilmorin](https://eshop.vilmorin-jardin.fr/fr_FR/produits/fraisier-des-bois-bio))

もちろん、これは「低温処理は不要」という意味ではありません。

今回使った種子、播種時期、室温、光、湿度などが組み合わさった結果だろうと思うので。


Fraise des boisの発根までの日数

処理 最短 中央値
低温処理なし 7日 12日
湿潤7日 5日 7日
乾燥7日 7日 12日
湿潤14日 2日 9日
湿潤21日 4日 8日

今回のFraise des boisは、3種類の中で明らかに発根が早かったです。

低温処理の有無にかかわらず比較的早く発根し、特に湿潤7日・14日・21日のグループでは、種まきから数日で根を確認したものもあります。


根より先に葉を確認した種もあった

乾燥7日処理のグループでは、2月20日に「発芽」を確認したものがありました。

ただし、この個体は根ではなく葉を先に確認したものだったため、今回の発根率には含めていません。

こうした記録も残しておくと、単純な「発芽した・しなかった」だけでは分からない種の動きを後から見返せるので面白いですね。


イギリスのMignonette|低温処理をしても発根まで時間がかかった

Mignonetteの発根結果

最後はThompson & MorganのMignonetteです。

処理 発根 発根率
低温処理なし 5/8 62.5%
湿潤7日 6/10 60%
乾燥7日 5/10 50%
湿潤14日 2/8 25%
乾燥14日 4/9 44.4%
湿潤20日 3/8 37.5%
乾燥20日 0/5 0%
湿潤28日 3/9 33.3%

この種では、低温処理を長くしたからといって発根率が上がる、という傾向は見られませんでした。

むしろ、今回の条件では低温処理なしと7日処理の発根率が比較的高く、14日以降では低くなる条件もありました。

もちろん、これだけで「長期の低温処理は逆効果」と判断することもできません。種子数が少なく、処理条件以外の要因もそろっていないからです。


Mignonetteの発根までの日数

処理 最短 中央値
低温処理なし 19日 41日
湿潤7日 22日 33.5日
乾燥7日 16日 32日
湿潤14日 14日 15.5日
乾燥14日 16日 20.5日
湿潤20日 21日 27日
湿潤28日 23日 24日

発根率だけでなく、発根までにかかった時間も3種類でかなり違うことが分かります。

特に低温処理なしでは、19日で発根したものがある一方、最後の発根確認は種まきから50日後でした。

なんというか、「明らかにこの期間が優秀」といえるグループがなさそうなんですよね。

「発芽するかどうか」だけでなく、「いつ発芽するのか」もあわせて考えると余計に。

しいていうなら14日グループは比較的発根までの期間が短いですが、発根率はさほど高くなかったので「どうなんだ?」という感じ。

種の個体差もありますもんね。


3種類の発根率を比較してみた

低温処理ごとの発根率

3種類の結果をまとめると、次のようになりました。

種類 処理 発根率
Woodland なし 10%
Woodland 湿潤7日 10%
Woodland 乾燥7日 50%
Woodland 湿潤14日 10.3%
Woodland 湿潤21日 12.7%
Fraise des bois なし 100%
Fraise des bois 湿潤7日 60%
Fraise des bois 乾燥7日 90%
Fraise des bois 湿潤14日 77.8%
Fraise des bois 湿潤21日 78.0%
Mignonette なし 62.5%
Mignonette 湿潤7日 60%
Mignonette 乾燥7日 50%
Mignonette 湿潤14日 25%
Mignonette 乾燥14日 44.4%
Mignonette 湿潤20日 37.5%
Mignonette 乾燥20日 0%
Mignonette 湿潤28日 33.3%


発根までの日数を比較

発根率だけではなく、発根した種が播種後何日で根を出したのかも見てみます。

種類 最短の発根 中央値の目安
Woodland 7日 条件により17〜24日程度
Fraise des bois 2日 7〜12日程度
Mignonette 14日 約15.5〜41日

ここでも、Fraise des boisの発根の早さが目立ちます。

反対にMignonetteは、早いものでも14日程度かかり、条件によっては30〜40日以上待つことになりました。

つまり、「低温処理を何日したか」だけでなく、「どの種だったか」がかなり大きく見える結果になっています。


3種類でかなり違う結果に

今回の実験を始める前は、3種類とも同じワイルドストロベリーなのだから、低温処理の日数を変えれば似たような傾向になるのではないかと思っていました。

ところが、実際にはそうなりませんでした。

低温処理なしで100%発根したFraise des boisがある一方、Woodlandでは低温処理なしが10%。

そしてMignonetteは、発根したものも発根までかなり長い時間がかかりました。

この違いを見ると、「ワイルドストロベリー」という名前だけで一つの発芽条件を当てはめるのは難しいのかもしれない、と感じます。

ワイルドストロベリー、フレーズ・デ・ボアの双葉
発根後は無肥料の土に植えました。
これはフレーズ・デ・ボア。
双葉にくっついているのが種子の殻です。


ちなみに、種子の時点で、3種類とも見た目が結構違っていました。

フレーズ・デ・ボアは粒が揃っていて大きく、逆にミニョネットはとても小さかったです。

ウッドランドは個々によって大きさがバラバラ、という感じ。

どれもワイルドストロベリーですので、いわゆるイチゴの種という感じではあるのですが、思っていたより個性があり驚きました。

ミニョネットはそもそも実が小粒と聞くので、それでくっついている種も小さめなのかもしれません。どうなんでしょう。

ちなみに、双葉の大きさもミニョネットが1番小さかったです。


ワイルドストロベリーの低温処理は何日必要?今回の結果から考えたこと

「○日が正解」とは言い切れなかった

今回の一番大きな結論は、これです。

「ワイルドストロベリーの種は○日冷やせばよい」とは言い切れませんでした。

たとえば、Fraise des boisでは低温処理なしでも10粒すべてが発根しました。

一方、Woodlandでは低温処理なしの発根率は10%で、乾燥7日処理では50%まで上がりました。

しかし、湿潤14日・21日とさらに処理期間を延ばしても、発根率は10.3%、12.7%でした。

つまり今回のWoodlandでは、長く冷やせば冷やすほど発根率が高くなる、という単純な関係は見られませんでした。


種の種類によって発根の早さが違った

もう一つ気になったのが、発根までの日数の違いです。

Fraise des boisでは、種まきから数日で発根するものが次々に出ました。

一方、Mignonetteでは20日、30日、40日と待ってから発根するものもありました。

もちろん、今回の実験だけで品種そのものの性質だと断定することはできません。

種子ロットや保存状態、個体差、播種時期など、いろいろな要因が考えられるからです。

それでも、同じ冬の室内で並べて観察していると、3種類の違いはかなり興味深いものでした。


低温処理後の温度や昼夜の変化も関係している?

そして、今回私が特に気になったのが「低温処理のあと」――つまり播種後の環境です。

なかなか発根しないWoodlandに痺れを切らし、日中に直射日光を追いかけ、容器に当て続けた翌日に発根を確認することが何度かありました。

もちろん、これは私の栽培記録から感じたことであって、日光、もしくはそれによる温度上昇が発根の原因だったと証明できるわけではありません。

ただ、もし種が低温を経験したあとに、日中はわりと暖かく夜は冷えるという環境に置かれたことで発根のタイミングが変わっていたとしたら、単純に「低温処理を何日したか」だけでは結果の説明ができません。

実際、植物の種子や植物体では、温度環境によって発芽やその後の生育が変化することが知られています。

Fragaria vescaについても、異なる温度環境で育てた種子から生じた植物で、その後の形質に違いが見られた研究があります。([Wiley Online Library](https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/ppl.13963))

今回の実験からそこまでの因果関係を証明することはできませんが、「低温処理の日数」+「その後の環境」という見方をしてみると、今回の結果が少し面白く見えてきます。


イタリア・フランス・イギリスの種で違いが出たのはなぜ?

種子会社の国と品種の原産地は同じではない

ここからは少し想像を含む考察です。

今回、イタリア・フランス・イギリスの会社から購入した3種類で、かなり違う発根の仕方が見られました。

すると、「もしかして、種が持っている背景の違いも関係しているのかな?」と考えたくなります。

ただし、ここで「イタリアの種」「フランスの種」「イギリスの種」という国名を、そのまま種の原産地や遺伝的背景だと考えることはできません。

種子会社の所在地と、品種が選抜された場所や野生集団の由来は別だからです。


植物の系統や種子の性質にも違いがある

一方で、Fragaria vescaには地域や系統による違いがあること自体は研究されています。

たとえば、ヨーロッパのFragaria vescaを対象にした研究では、異なる系統間で温度環境に関係する形質の違いが調べられています。([サイエンスダイレクト](https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0367253023001068))

そのため、「同じワイルドストロベリーという種なら、どの系統の種子もまったく同じ環境下で発芽し、育つ」というわけではないようです。

ただし、それを今回の3種類にそのまま当てはめて、「イタリア系だからこう」「フランス系だからこう」と説明することは難しそうです。何せ各メーカーのワイルドストロベリーの由来がわからないので。


育った環境と日本の冬との「相性」はある?

私が今回考えてみたいのは、もう少し控えめな仮説です。

もし種子の系統や選抜された環境によって、経験してきた温度環境に違いがあるなら、その種が日本の冬の室内のような「日照時間は短めで、昼はそこそこ暖かいけれど、夜は冷える」という環境に置かれたとき、発根のタイミングに違いが出ることはないのだろうか?というものです。

たとえば今回の環境は、ずっと20℃前後に保たれていたわけではありません。

夜は15℃を下回ることがあり(日によっては12℃を下回ることさえありました)、昼は暖房や日射で温度が上がる。

さらに、南西向きの窓辺だったので、日中には容器が直射日光で温められることもありました。

こうした「低温→日中の昇温→夜間の低温」という変化と、それぞれの種子の性質との組み合わせが、発根のタイミングに何らかの影響を与えていた可能性はないかな、と考えてしまいました。


海外の春の気温を調べてみた

というわけで、海外の気温を調べてみることにしました。

種子会社の所在地と、種子そのものがどの地域の環境に由来するのかは別の話ですが、好奇心に抗えませんでしたので。参考までに。

それぞれの国の代表的な地点の、3月〜5月の最低気温と最高気温を表にまとめました。

今回は、比較しやすいように1991~2020年の30年間の平年値をそろえ、イタリアのローマはチャンピーノ、フランスのパリはモンソーリス、イギリスのロンドンはヒースローの観測地点を使用しています。

地域 3月 4月 5月
🇮🇹 ローマ(チャンピーノ) 最高15.8℃
最低5.9℃
最高18.8℃
最低8.6℃
最高23.4℃
最低12.6℃
🇫🇷 パリ(モンスリ) 最高12.8℃
最低5.6℃
最高16.6℃
最低7.9℃
最高20.2℃
最低11.1℃
🇬🇧 ロンドン(ヒースロー) 最高11.7℃
最低4.1℃
最高15.0℃
最低6.0℃
最高18.4℃
最低9.1℃

※気温は各観測地点における1991~2020年の平年値です。都市全体の平均値ではなく、観測地点によって数値は異なります。数値は比較しやすいよう小数第1位に丸めています。

出典

  • ローマ(Ciampino):1991~2020年の気候平年値。World Meteorological Organization(WMO)の標準平年値に基づくデータ。
  • パリ(Paris-Montsouris):Météo-Franceの1991~2020年平年値。
  • ロンドン(Heathrow):Met Office「Heathrow Location-specific long-term averages」、1991~2020年。

3地点を比べると、春の気温にはかなり違いがあります。

3月の最低気温は、ローマが5.9℃、パリが5.6℃、ロンドンが4.1℃。

最高気温もローマ15.8℃、パリ12.8℃、ロンドン11.7℃と、ローマの方が暖かくなっています。

4月になると差がさらに分かりやすくなり、ローマでは最高18.8℃、最低8.6℃まで上がる一方、ロンドンでは最高15.0℃、最低6.0℃です。

5月にはローマの最高気温が23.4℃、パリが20.2℃、ロンドンが18.4℃となります。

面白いですね。

もちろん、「イタリアの種だから15℃以上が好き」「イギリスの種だから低温に強い」というように、種子会社の国から種子の性質を決めることはできません。

実際には、種子が採種された地域、栽培されていた環境、品種や系統、採種後の保存状態など、さまざまな要因が関係します。

ただ、適切な気温が発芽の重要な要素であるとすると、低温処理後にどのような温度環境へ移すのかも、発芽を考えるうえで大事なところなのだと思います。


海外3都市の春の日の長さ(可照時間)と日照時間を調べてみた

気温だけでなく、もう一つ気になったのが春の日の長さ(可照時間)と、実際の日照時間です。

「春になれば日が長くなる」というのは3都市とも同じですが、日の出から日の入りまでの時間と、実際に太陽が照っていた時間は同じではありません。

そこで、ここでもイタリア・フランス・イギリスを代表する都市として、ローマ・パリ・ロンドンの3〜5月を比較してみました。

地域 3月 4月 5月
🇮🇹 ローマ 可照 約11時間52分
日照 約6.0時間
可照 約13時間18分
日照 約6.8時間
可照 約14時間32分
日照 約10.1時間
🇫🇷 パリ 可照 約11時間48分
日照 約4.4時間
可照 約13時間39分
日照 約5.9時間
可照 約15時間16分
日照 約6.5時間
🇬🇧 ロンドン 可照 約11時間47分
日照 約4.0時間
可照 約13時間49分
日照 約5.9時間
可照 約15時間36分
日照 約6.7時間

※日の長さは日の出から日の入りまでの時間の月平均の目安です。日の長さは天文学的に決まるため、1991〜2020年のような気候平年値ではなく、各都市の緯度に基づく代表値です。
※日照時間は1991〜2020年の月間平年値を各月の日数で割り、1日平均に換算しています。ローマはチャンピーノ、パリはモンソーリス、ロンドンはヒースローの観測値を使用しています。

こうして並べてみると、ちょっと面白いことが分かります。

日の長さだけを見ると、春のロンドンは3都市の中でむしろ長いのです。

5月になると、ロンドンは約15時間36分、パリは約15時間15分。ローマは約14時間32分なので、北に位置するロンドンやパリのほうが日の長さは長くなります。

ところが、実際の日照時間はローマがかなり長い。

5月の日照時間は、ローマが約10.1時間なのに対して、パリは約6.5時間、ロンドンは約6.7時間です。

つまり、「日の長さが長い=実際に太陽が出ている時間も長い」とは限らないことがわかります。

ロンドンは日の長さそのものは長いのに、雲や雨などの影響もあってか、実際の日照時間はローマより短くなっています。

ただし、ここから「イタリアの種は日照が多い環境を好み、イギリスの種は日照が少ない環境を好む」とまでは考えることができません。

繰り返しますが、今回購入した種子会社の所在国と、実際にその種子が生産・選抜された場所や、その品種が成立した地域は必ずしも同じではないからです。

また、植物の発根には温度だけでなく、水分、光、種子そのものの休眠状態、保存状態など、さまざまな条件が関係します。

それでも、今回の実験結果と重ねて考えると、結構面白い違いがあるなと思いました。

「低温処理を何日したか」だけではなく、その後どのような温度や光の環境に置くかという視点ですね。

今回の種まきは、真冬の室内で行いました。南西窓の近くに置いていたとはいえ、日照は屋外ほど期待できない環境だったかと思います。

また、夜間はファンヒーターを切っていたため、15℃を下回ることがあり(日によっては朝12℃を下回っていたことも)、昼間はファンヒーターによって約19℃まで上げていました。天気のいい日は直射日光によってさらに容器の温度が上がっていた可能性もあります。

つまり、比較的日照時間の短い、かつ、昼夜で温度が変化し、さらに晴れた日には日射によって容器周辺が暖まるという環境でした。

もしかすると、こうした温度の変化と光環境の組み合わせが、3種類の発根タイミングの違いに何らかの形で関係していた可能性もあります。

ただし、これは今回の実験から考えた仮説にすぎません。

今回の3種類は品種・種子ロットも異なり、同じ条件で育った種子を比較したわけでもないためです。

それでも、3都市の春の気候を調べてみると、気温だけでなく、日の長さと実際の日照時間にも違いがあることがわかりました。

今回の3種類の発根結果を考えるときには、こうした「種子の性質 × 低温処理 × その後の温度変化 × 光環境」という組み合わせも、ひとつの仮説として考えてみても面白いのかもしれません。


今回の実験はあくまで一般家庭で行いました

もし本当に「種の背景と環境の相性」を調べるなら、同じ種子を使って、

  • 一定温度
  • 昼夜で温度を変えた条件
  • 異なる低温処理期間
  • 同じ光条件
  • 同じ水分条件

などを揃えて比較する必要があります。

家庭園芸の実験としては、なかなか大がかりですね。

今回はそこまではできないので、「こういう可能性もあるのかもしれない」というところまでにしておきます。


今回の実験でわからなかったこと

品種・種子ロットが違う

今回の最大の注意点は、3種類が同じ遺伝的背景の種ではないことです。

つまり、「イタリア・フランス・イギリス」という国の違いだけを比較した実験ではありません。

そもそも品種そのものが違うため、発根率の差を国の違いだけで説明することはできません。


種子の保存状態や個体差

種子の保存期間や保存環境、種子そのものの個体差なども、発根結果に影響した可能性があります。

同じ袋の中でも、すべての種がまったく同じ状態とは限りません。


キッチンペーパーや容器の温度までは測っていない

室温については観察していますが、種をまいたキッチンペーパーや容器そのものが何℃になっていたかまでは測っていません。

特に直射日光が当たる時間帯は、室温より容器の温度が高くなっていた可能性があります。

そのため、「日光で温まった翌日に発根した」という観察から、温度が原因だったと断定することはできません。


大規模な比較実験ではない

今回の実験は、家庭で行った小規模な観察です。

条件によって種子数も異なり、発根数が1粒しかないグループもあります。

そのため、今回の数字は「この条件なら必ずこの発根率になる」というデータではなく、私が育てた種子で実際に観察した結果として見ていただければと思います。


まとめ|3種類を比較すると低温処理だけでは説明できない違いがあった

今回は、イタリア・フランス・イギリスの種子会社から購入した3種類のワイルドストロベリーを、真冬の室内で種から育てて比較しました。

低温処理の日数を変えて発根を記録した結果、今回の3種類については、「○日間低温処理すればよい」と一つの答えにまとめることはできませんでした。

特に印象に残ったのは、次の3つです。

  • Woodlandは、今回の条件では乾燥7日間の低温処理で5/10と最も高い発根率になった
  • Fraise des boisは、低温処理なしでも10/10が発根し、3種類の中でも発根が早かった
  • Mignonetteは、低温処理をしても発根まで時間がかかるものが多かった

この結果を見ると、低温処理は「何日やればいい?」と日数だけで考えるよりも、種の種類や状態、低温処理の方法、その後の温度環境などを合わせて考えたほうがよさそうです。

また、今回の実験では、昼は暖まり夜は冷えるという真冬の室内環境で行いました。

特に、Woodlandでは日中にしっかり直射日光を追いかけて当てた翌日に発根するように見えた例があり、私は「低温処理を何日したか」だけでなく、「低温処理のあとにどんな温度や光環境を経験したか」も関係しているのではないかと気になりました。

もちろん、今回の実験だけではそこまで証明できません。

それでも、同じワイルドストロベリーでも、種によってこんなに発根の仕方が違うのだと分かったのは、育ててみて面白かったところです。

海外からやってきた小さな種たちを、日本の冬の窓辺で育ててみる。風流ですね。

ちなみに、なぜ冬に蒔いたかというと、気分が向いたからです。

どう考えても夜間12℃を下回るような環境がワイルドストロベリーの播種に適していたとは思えないので、発芽率の低かったWoodlandも暖かい季節に蒔けばまた違った結果になるかもしれません。

今回の記録が、ワイルドストロベリーを種から育てる方の参考になればうれしいです。


ちなみに、その後肥料をやるタイミングを逃したためか、なかなか大きくなりません。

生育不良のワイルドストロベリー、ウッドランドの苗


生育不良のワイルドストロベリー、フレーズ・デ・ボアの苗


生育不良のワイルドストロベリー、ミニョネットの苗

上から、ウッドランド、フレーズ・デ・ボア、ミニョネットです。

かと思うとひとつだけ、

大きくなったワイルドストロベリー、ウッドランドの苗

なぜか大きくなった子もいます。

この子はウッドランド。なぜなんでしょう。

また順調に大きくなればお知らせします。


参考にした情報・出典

今回の記事では、以下の公式情報・研究資料を参考にしました。

  • Vilmorin Jardin「Fraisier des Bois - BIO」:低温処理2週間、最低20℃での播種、発芽期間などの栽培情報。([Vilmorin](https://eshop.vilmorin-jardin.fr/fr_FR/produits/fraisier-des-bois-bio))
  • Thompson & Morgan「Strawberry Mignonette」関連商品情報:Mignonetteをアルパインストロベリーとして紹介。([トンプソン・モーガン](https://www.thompson-morgan.com/p/thompson-morgan-exotic-fruit-seed-growing-kit/tka1542TM))
  • FRANCHI SEMENTI「Sementi di qualità」:種子生産、発芽検査、試験圃場など同社の種子生産体制。([Franchi Sementi](https://franchisementi.it/sementi-di-qualita/))
  • Fragaria vescaの低温処理に関する研究:湿らせた種を5℃で3週間処理した場合の発芽速度・発芽のそろい方について。([PubMed Central (PMC)](https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2780397/))
  • Fragaria vescaの温度環境と形質に関する研究:異なる温度条件で生産された種子からの植物について、後の形質への影響を調査。([Wiley Online Library](https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/ppl.13963))

※本記事の発根率・発根までの日数・栽培環境については、私自身が行った家庭での実験記録です。

※今回の実験は、品種・種子ロット・種子数・保存状態・温度などの条件を完全に統一した比較試験ではありません。そのため、結果は一例としてご覧ください。